専門筋に聞く世界金融崩壊のこれから

日々担々 資料ブログ

(日刊ゲンダイ2011/11/30)

1929年世界恐慌以上の経済パニック前夜

もう日本人も他人事ではいられない。

ギリシャから始まった「ヨーロッパ危機」が、いよいよヤバくなってきた。米ムーディーズは28日、欧州各国を一斉に「格下げ」する可能性があると明らかにした。これまでイタリアやスペインなど財政不安のある国を次々に格下げしてきたが、欧州各国を一斉に格下げしようなんて、よほどのこと。それほどヨーロッパ危機は深刻ということだ。

ヨーロッパの経済危機は、一言で言えば、欧州各国が「財政危機」に瀕し、発行した「国債」を誰も信用しなくなったということだ。1年半前、ギリシャの国家的な虚偽会計に端を発した危機は、欧州各国に広がり、ついにヨーロッパの心臓部に到達している。
「ヨーロッパ各国はギリシャを防波堤にするつもりでした。ところが防波堤はあっさり破られ、スペイン、イタリアを火に包み、フランス、ドイツにまで危機が及びつつあります。ギリシャは国債の償還を50%免除してもらう事実上のデフォルトに陥り、EU第3位の経済大国イタリアはIMFの管理下に入った。ドイツの国債は買い手がつかない“札割れ”を起こしています。もはや欧州に安全な国はどこにもありません」(民間シンクタンク研究員)

信用を失ったイタリア国債は売り浴びせられ、利回りは“危険水域”の7%台に上昇。ギリシャ、ポルトガルは、国債利回りが7%を超えた時点でギブアップし、金融支援に追い込まれた。イタリアを金融支援するとなると、最低2兆ユーロ(208兆円)は必要とみられている。 欧州各国はこの1年半、危機が噴出するたびに集まっては対応策を練ってきたが、もう手に負えなくなっている。

◆欧州の危機は中国、日本へと飛び火
いずれヨーロッパ危機が、「世界不況」につながるのは間違いない。すでに欧州各国は深刻な不況に直面している。
ヨーロッパ危機が厄介なのは、「国家の財政危機」と「銀行の経営危機」がリンクしていることだ。
ヨーロッパの銀行は、“不良債権”となったユーロ圏の国債を大量に抱えている。すこしでも不良債権を処理しようと国債を「投げ売り」しているが、その結果、さらに国債が値下がりし、手持ちの国債の“含み損”を膨らませるという悪循環に陥っている。
「欧州の金融機関は、どこも不良債権を抱え、経営危機に苦しんでいる。かつての日本の銀行と同じです。すさまじい“貸し渋り”が起き、欧州の景気は急速に悪化し始めている。問題は、悪影響が欧州内にとどまらないことです。たとえば、モロに打撃を受けるのは中国です。中国の輸出の4割は欧州向けだけに、欧州の景気が冷え込んだらどうにもならない。中国の景気が悪くなると、今度は中国に輸出している日本がおかしくなるという構図です。グローバル化時代は、一国の経済がガタつくと、ドミノのように危機が広がっていく。日本だけが無傷ということはありません」(経済評論家・広瀬嘉夫氏)

ヨーロッパ危機の端緒となったギリシャは、「倒産」と「失業」の嵐が吹き荒れ、自殺者が40%も増加。男性の4人に1人、女性の3人に1人が「うつ病」にかかっている。デモも連日発生。ヨーロッパの世情は日増しに悪化している。

◆「世界恐慌」を止める策がない

まだ日本人はピンときていないようだが、もはや世界は「恐慌前夜」だと覚悟したほうがいい。
1929年の「世界恐慌」以上の経済パニックが起こっておかしくない。すでに慶大教授の金子勝氏や、財務省の財務官を務めた榊原英資氏といった専門家も、世界恐慌の可能性を指摘している。
楽観論を唱える専門家は瀕している。すがりつく先は新興国の中国くらいしかない。ヨーロッパ市場に輸出している中国は、なんとか欧州各国を救済したいでしょうが、さすがに一国では難しい。どこにも出口が見えない状況です」
時代状況も1929年の頃によく似ている。

世界的に経済が行き詰まり、貧富の格差が広がり、政治に対する不満が渦巻いている。世界恐慌の時は、ほとんどいない。筑波大名誉教授の小林弥六氏(経済政策)がこう言う。
「残念ながら、経済危機を食い止める策がないのが現実です。これまでヨーロッパの経済危機が起きるたびにドイツが中心となって資金を出してしのいできたが、そのドイツまで足元が怪しくなっている。かつてならアメリカに頼るところですが、アメリカ自身が財政危機に、ヒトラーのようなファシズムを生んだ。
1929年の世界恐慌の時は、戦争に「解決策」を求めたが、この時代に果たしてどうすればいいのか。

◆国民の不安を強める野田首相の最悪

このままでは、日本経済も国民生活も大打撃を受ける。ただでさえデフレ不況に苦しんでいるのに、世界恐慌が起きたら、日本は破滅だ。被害を最小限にするために、大急ぎで手を打つ必要がある。

ところが肝心の野田政権は、危機感のカケラもないのだからどうしようもない。
「この先、急速に不況が悪化するのは間違いない。しかも長期化する恐れがあります。失業者が急増するでしょう。心配なのは、生活が良くなる希望がなくなると、国民の間に強いリーダーを求める“英雄待望論”が起きることです。ファシズムになりかねない。そうならないためには、政府が国民に安心感を与えるしかない。国民の生活、たとえば“年金”“医療”“雇用”だけは絶対に守ると約束するのです。ところが、野田首相は正反対のことをしている。年金の受給開始を65歳から70歳に引き上げるなんて最悪です。しかも、“復興増税だ”“消費税だ”と、増税しか口にしない。国民負担ばかり増やしたら、国民はますます将来不安を募らせるだけだし、不況を悪化させるだけです。野田首相はどうかしています」(小林弥六氏=前出)

世界が平穏ならドジョウ首相でもいいだろう。しかし、目前に危機が迫っているのに、無能な首相では話にならない。世界恐慌が起こる前に引きずり降ろさないと、日本は大変なことになる。