平成の「大本営発表」? 首相の“事故収束”宣言

JANJAN

成瀬裕史
■「事故収束」に懐疑的な海外メディア

 16日、野田首相は記者会見で、「原子炉は冷温停止状態に達し、事故そのものが収束に至ったと判断できる」と述べ、事故収束の工程表「ステップ2」の完了を宣言した。

 しかし、これに対し海外メディアは、懐疑的な見方を一斉に伝えた。

 米CNNは「日本政府は画期的な出来事としようとしているが、現実は違う。過去、約半年間の原発の安全性に関する状況は基本的に変わっていない」と伝える一方、「脱原発」を決めたドイツのDPA通信は、
「燃料棒が溶融し、圧力容器を破って地上に漏れているともみられ、まだ安全な状態には程遠い。これで冷温停止を宣言するのは意図的なウソと紙一重。日本政府は国民をミスリードしている」と批判する専門家の見方を紹介した。
 NYタイムズも「年末までに冷却システムを回復させるとの日本政府の約束を反映させたにすぎず、原子炉が依然として抱える危険から注意をそらせる恐れがある」と指摘している。
 

 

■「ステップ2」完了宣言は「政府の面目」を保つため?

 「ステップ2」の達成は、避難した住民の帰宅の条件でもあり、野田首相は会見で「避難指示区域の見直しについて政府の考え方を近く示す」と述べ、また、除染作業などへの対応について「当面の費用として1兆円を超える額を用意している。作業要員などに来年4月をめどに3万人以上を確保する」と述べた。

 環境省は来月以降、比較的放射線量の低い楢葉町から除染作業を本格的に始める方針という。

 来年1月に施行される特別措置法に基づき、警戒区域計画的避難区域は、国が直接、除染を行うこととなるが、道路、水道、電気といったインフラ設備を中心に先行実施し、住宅や農地などは3月末から本格的に除染が始まる。
 年間被ばく線量が20mSv未満の地域は「避難指示解除準備区域」とし、住民がなるべく早く帰宅できるよう除染やインフラの復旧を急ぐ方針で、楢葉町は多くの地域が20mSvを下回り、避難指示解除準備区域になる可能性が高いという。

 この「避難指示解除」に向けての除染作業は、「ステップ2」が完了しないと始まらない。
 予算編成に当たっても、前提となる「ステップ2」完了の“事実”が、財務省をはじめとする「官僚の理屈」としては必要だったのではあるまいか?
 「ステップ2」の完了を宣言することにより、何よりも守られたのは、環境省財務省など政府・官僚組織の「面目」だったのではあるまいか?

 NYタイムズの「年末までに冷却システムを回復させるとの日本政府の約束を反映させたにすぎない」との指摘は、的を得すぎていて、日本人としては恥ずかしいやら、情けないやらで、胸が痛む…。

 

■今も続く主要メディアの「大本営発表」!?

 かつての太平洋戦争中、大本営の発表に追従するだけだった我が国の報道機関は、平成の世となった今回の「大本営発表」において、首相会見・政府発表以外に何を伝えただろうか? 

 海外メディアの「痛烈な批判」の記事はあっても、自ら直接的な批判は行わず、佐藤福島県知事の「事故は収束していない。多くの県民は不安を感じている」などのコメントを添える程度である。
 「記者団からは『宣言は拙速』との指摘も相次いだ」と報じた全国紙もあったが、そこまで書くくらいなら、自ら「宣言は拙速だ!」とは書けないものだろうか?
 そう書くと省庁の記者クラブから「出入り禁止」を喰らってしまうのだろうか…?

 省庁からの「出入り禁止」を恐れない(?)東京新聞は、“堂々”と17日の社説で、こう述べている。
「事故収束宣言 幕引きとはあきれ返る」

 曰く、「『原子炉は冷温停止状態に達し、事故そのものが収束に至った』と述べた野田首相の言葉に誰もが耳を疑ったことだろう。
 原発建屋内ではいまだに高い放射線量が計測され、人が立ち入れない場所もある。さっそく現場作業員から『政府はウソばかり』と批判の声が上がったほどだ。
 そもそも『冷温停止』という言葉は正常運転する原発で用いられる。『状態』というあいまいな文字を付けて宣言にこだわる姿勢は、幕引きありきの政治的な思惑からだろう。」

福島第一原発は『収束』どころか、溶け出した核燃料が格納容器内でどうなっているかもつかめず、ただ水を注ぎ込み、冷却しているにすぎない。
 循環注水冷却システムが正常に機能すればいいが、大きな地震が襲えば、再び不安定化する心配はつきまとう。綱渡り状態なのが現状ではなかろうか。」

「『解除準備区域』では除染とともに住民が戻れるようにするというが、子育て世代が安心して帰還できるだろうか。社会インフラの機能回復も見通せないままだ。
 収束宣言の内実は、原発事故の未知領域に足を踏み入れる「幕開け」といった方がいい。」

 

 この東京新聞の社説をネットで目にしたとき、私は「海外メディアのような報道機関が日本にもあるんだ!?」と驚いたが、それは一瞬にして、次の哀しみに変わった…。

 「―この国の主要メディアでは、今も『大本営発表』が続いているのか?」と…。 

成瀬裕史記者のプロフィール
1960年生まれ。北日本の一地方在住。一次産業を主とする“地方”の復興のため、明治維新から続く中央集権・官僚主導の国家体制の“CHANGE”を志す。