東電「実質国有化」という名の「公的資金での救済」

植草一秀の知られざる真実

読売新聞が次のように伝えている。
「政府は原子力損害賠償支援機構を通じて東京電力の3分の2以上の株式を取得し、東電を事実上国有化する方向で調整に入った。
 支援機構が1兆円を出資し、主力取引行にも総額1兆円の追加融資を求め、官民で総額2兆円の資金支援をする。福島第一原子力発電所廃炉費用などがかさみ、東電が債務超過に陥ることを防ぎ、リストラを強力に進める。
 関係者によると、支援機構は20日から、主力取引銀行に対して支援策を提示し始めた。年明けから本格的な交渉に入り、来年3月のとりまとめを目指す。
 取得するのは東電の種類株などになる見通し。既存の株主が持つ普通株と区別することで、将来、機構の保有分を売却する仕組みが作りやすくなる。」
これまでも伝えてきたが、「実質国有化」という措置は、正しい日本語で表現すると「公的資金による救済」である。
実質国有化」と「一時国有化」とは似て非なるものである。
2002年9月30日の内閣改造で金融相に就任した竹中平蔵氏は「「大きすぎるからつぶせない」との方針をとらない」
と発言した。
他方、小泉純一郎首相は、
「退出すべき企業は市場から退出させる」
との方針を明示していた。
 竹中金融行政は木村剛氏の間違った指南を受けて、金融機関を自己資本不足に陥らせるための制度変更を画策した。しかし、試合の途中で審判が勝手にルールを変更するような措置は同意が得られなかった。
 それでも、標的に定めた金融機関を自己資本不足に陥れるために、小泉竹中金融行政は恣意的に金融行政を運用して、標的に選んだりそな銀行自己資本不足に追い込んだ。自己資本調達などの措置を終えて、追加的な措置ができない3月末の決算期末のあとに監査法人などに働きかけて、人為的に自己資本不足に追い込んだのである。
この際、伝令として一連の謀略に関与したのが木村剛氏である。標的に選ばれた銀行はりそな銀行である。りそな銀行が標的に選ばれた理由は、りそな銀行トップが、小泉竹中経済政策をはっきりと批判していたからである。
 以上は私の推察であり、その詳細を拙著『日本の独立』(飛鳥新社)に記述した。「平成の黒い霧」事件として特記するべき事案であると考えている。実際、拙著『日本の独立』のなかでは、「平成の黒い霧」という章のなかでこの問題を取り上げている。
自己資本不足に追い込んだりそな銀行を、小泉竹中金融行政は、最後の局面で「実質国有化」した。「一時国有化」で破綻処理をしなかったのである。
その理由は、りそな銀行を破たん処理すると、ドミノ式に企業破綻が広がり、日本が金融恐慌に陥るからであった。竹中金融行政はりそな銀行繰延税金資産の3年計上を認めるという、あり得ない選択を示した。
木村剛氏は、りそな銀行繰延税金資産の計上はゼロないし1年しかあり得ず、この選択を監査法人が示さない場合には、監査法人を破綻させるべきだとまで明言していた。
りそなの繰延税金資産の3年計上を認めたのは、3年計上にしなければりそな銀行公的資金で救済することができなかったからである。預金保険法102条には1号措置という、「抜け穴条項」が用意されていた。この条項を用いる場合には、銀行を公的資金で救済できる。その抜け穴を通すために、3年計上という不思議で不自然な、あり得ない選択が示されたのである。
竹中金融行政はりそな銀行公的資金で救済した。しかし、「退出すべきは退出」と明言し、「大きすぎるからつぶせないとの考えをとらない」と明言してきた小泉竹中金融行政にとって、りそな銀行の「公的資金による救済」は、あまりにも情けない決定だった。
そこで、竹中金融行政は不正確な日本語表現を用いたのだ。
これが、「実質国有化」である。内実は「公的資金による救済」だが、この正確な日本語では、小泉竹中金融行政のイメージを悪化させる。日本経済新聞が全面協力して、この「公的資金による救済」を「実質国有化」という言葉に置き換えてしまったのだ。
「一時国有化」は企業を法的整理するもので、破たん処理である。これに対して、「実質国有化」は企業の法的責任を問わずに、企業を公的資金で救済するものであり、「一時国有化」とは天地の開きがある。
責任処理がまったく異なる。法的整理する場合、企業の経営責任、株主責任、債権者責任が厳格に問われることになる。
ところが、公的資金による救済の場合、企業の経営責任、株主責任、債権者責任は問われない。
りそな銀行の場合、りそなを標的にした理由は、りそなの経営者が正論を示したことにあり、そのため、りそな銀行の経営トップは追放され、小泉竹中近親者が大量にりそな銀経営陣として送り込まれた。その後、りそな銀行自民党の機関銀行化したことは2006年12月18日付朝日新聞が1面でスクープした通りである。
政府は本来、法的整理されなければならない東京電力公的資金で救済しようとしている。その結果、東電の株主、債権者が救済される。この株主、債権者のなかに、主要な政府機関などが大量に含まれる。つまり、政府は政府機関を救済するために東電を公的資金で救済するのである。
経営者はいずれ追放されるだろう。そして、そこに、政府近親者が送り込まれるのだ。これが、政府による企業乗っ取りの常套手段になり始めている。
そして、原発事故損害賠償などのつけは、すべて、電力利用者である一般国民に覆いかぶされることになる。