食材の不安(どうなっているか?)・・・農水省の反撃に備える

武田邦彦中部大学教授

福島のほうれん草、宮城・蔵王のお茶と立て続けに「2回目の暫定基準値」を超えた食材が出ているさなかに、農水省が「民間が独自に基準を設けるのはけしからん。国に従え」という通達をだして顰蹙を買っています。まるでお殿様ですね。

この農水省通達は大きな問題を抱えているので別の機会にして、ここでは最近の食材事情を少し整理してみたいと思います。行政上の問題や生活の注意をします。

まず、福島のほうれん草ですが、これは予想されたことです。なにしろ、セシウムの再飛散が昨年の12月半ばからはじまり、その対策は全く取られていません。一度、土、ゴミ、瓦礫などに付着したセシウムが何らかの原因で福島の空に舞い上がっているのですから、それがほうれん草を汚染するのはいわば当然のことです。

これに対して「再飛散は焼却が原因ではない」、「瓦礫は大丈夫」と否定ばかりして、汚染の拡大を防止しようとする自治体はほとんどないようです。誰の税金で運営しているのかと訝るばかりです。

再飛散関係で少し注意を要するのは、福島の葉物野菜は当然ですが、関東北部、東北南部は一応、注意が必要でしょう。農水省が呼びかけるとしたら、このような野菜に対する十分な情報と注意、および監視でしょう。

再飛散は相変わらず続いています。これは葉物野菜を汚染するばかりではなく、マスクをしないと内部被曝にもなります。しかし、危険な地域は福島の1時間1マイクロ以上の地域に今のところ限定されているようです。

葉物野菜以外の大根などは現在は汚染が見られません。また、関東東北の椎茸、川魚、それに太平洋側の北海道から神奈川までの魚、特に「底魚、海藻、貝類」など特定の食品は危険です。

海への潮干狩り、行楽、学校行事は、神奈川から北海道までは危険です。主たる理由はストロンチウムが測定されていないことで、放射線防護の原則は「測定値がなければ危険と見なす」ということで、これは放射性物質が見えないことによります。
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宮城の蔵王町のお茶は1キロ2万ベクレルというものすごい量ですが、これも「理屈通り」です。2011年4月、静岡県のお茶を取り扱っていた方は汚染でひどい目に遭いました。この原因は「人間が大丈夫なら植物も大丈夫だろう」という知識不足だったのです。

放射性物質と言っても、ヨウ素セシウムストロンチウムといろいろな元素があります。よく「**を食べると**がとれる」という理由で食材を選んだり、「**にはカルシウムが多く含まれている」などと言われますが、このことは「特定の植物には特定の元素が多く吸収される」ということです。

だから、「人間」という動物より「お茶」という植物が「セシウム」という元素を多く含んでも、別に驚くことはないのです。そして今の汚染の基準は「人間は大丈夫か」と言うことだけで決まっています。つまり農業や漁業は切り捨て規制なのです。

もう一つ、自治体の「油断」があります。かつて静岡はやややむを得なかったのですが、最初の段階で油断しました。第二に横浜市の市長は「大したことはない」を繰り返し、パンフレットで市民に「油断」を勧めた結果、市内の給食で数回、暫定基準値すら大きく上回る食材を使いました。

岩手県一関市も「一関に放射性物質が降ったなどと言ってもらっては困る」と市長や議会が言った直後に、セシウムで汚染されたウシをだし、さらに農作物が被害を受けました。事実を正面から見つめ、それを認める勇気が必要です。元素は元素ですから。

そして事実を認める勇気は「子供を守る、国土を守る、コメを守る」という「心」から出てくるものです。決して「お金」からは未来の日本は開くことができません。

生活上は、岩手から神奈川までの農作物、山形、新潟のものは要注意です。本当は農業関係者、自治体がしっかりしていればすでに安全な時期なのですが、残念です。私たちは「食べる食材の種類を多くして、平均的な汚染濃度を減らす」のが一番でしょう。
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このほかに静岡県焼津の「鰹節を作るときにでる灰」の中に1万3000ベクレルのセシウムを検出していたのに発表しなかったという事件がありました。隠匿したのは2段階で、最初が組合(センターという名前らしいのですが、ともかく当事者)、次が市の水産課です。

2011年8月にわかったらしく、事実が広がるのをいやがって(お客さんの健康より自分たちの儲け)、公表せず2012年3月になって市に報告、市の方は「発表を促したが、センターが発表を遅らせた」とまるでセンターの責任にしています。

センターが隠したのも問題ですが、市が「発表を促す」のではなく「知ったらすぐ発表する」のが筋です。なんと言っても1キロ100ベクレル以上が原発の「低レベル廃棄物」ですから、その130倍の灰を無許可で取り扱っていた事実をつかんだら、役所としてはすぐ発表し必要な措置を執る必要があります。

でも、もう一つは、これまでこのようなこと(基準を超えた放射性物質で汚染されたものを隠していた)が起こったら、大騒ぎしてくれるNHK、マスコミがほとんど伝えないことです。台風情報がその一つですがNHK、マスコミ報道部の社会的責任の一つは「危険を知らせる」ということで、その「危険」とは「マスコミが決める基準」ではなく、法律、規則、学会などが決めるものです。

低レベル廃棄物の130倍という灰を出しながら隠していても、NHKが大々的に報道しないと言うことになると「法律はどうでもよい」ということですから、NHKには順法精神がないということになりNHKの受信料を払わなくてもよいことをみずから認めているのでしょう。

かなり「汚染が隠されている」と考えて警戒をした方が良いと思います。悲しいことですが、政府や自治体、農業団体・漁業団体が日本人の子供の健康を考えず、自分たちのことだけを考えている状態ではこちらも警戒をせざるを得ません。

市議会も活動しているところもあるのですが、全体としては「利益団体」となり、本当に選挙民、その中でも弱い人に目を向けていないようです。

この3つのことは、食材が相変わらず危険であるということで、その中での農水省の通達は本当に国民を向いていないという情けない事件でした(通達については次に書きます)。


平成24年4月22日)
(宮城の蔵王と山形の蔵王を間違えていました。修正しました) 武田邦彦