クマ肉から新規制値超すセシウム、猟友会が困惑

YOMIURI ONLINE

ほぼ自己負担 「猟にメリットない」

県内で捕獲されたツキノワグマ2頭の肉から食品の新規制値(1キロ・グラムあたり100ベクレル)を超える放射性セシウムが検出されたことを受けて、県が出したクマ肉の食用自粛などを求める通知が、「コストをかけて猟をしてもメリットがない」と、猟友会に波紋を広げている。本格的なクマの出没期を控え、有害鳥獣捕獲が進まない恐れがあることから、県はクマの買い取りなどを検討している。

 県みどり自然課によると、4月18、21日に宮城、福島県境付近の上山市米沢市で捕獲されたツキノワグマ2頭から規制値を超える放射性セシウムを検出。県は同24日付で県猟友会に対し、問題のクマが捕獲された上山市米沢市などの県境付近の奥羽山脈の野生動物については、肉を食べることを自粛し、処分するよう通知した。同課は「万が一の健康被害を避けるために行った」としている。

 しかし、この通知に対する猟友会の受け止めは複雑だ。県に依頼される有害鳥獣捕獲も含めて、ほぼ自己負担で行っているクマの猟は、自家消費を目的としてきたためだ。

 県内18支部で構成される県猟友会の川越正副会長(72)によると、通知の後、上山市米沢市など県南部の会員を中心に、「セシウムが検出されたクマはともかく、そのほかも自粛対象となり、処分まで求められるなら、猟を行う意味がない」などの声が上がっているという。

 クマの捕獲に使用する銃弾は1発300円〜500円で、1匹仕留めるために、多いときには10発程度使う。日常的な銃の手入れにも費用がかかるうえ、兼業している猟師は急な捕獲依頼があった時に仕事を休んで対応している。

 野生動物の放射性物質検査のための捕獲については、1頭あたり1万円ほどの協力金が支払われるものの、複数人で猟を行うために個々人の取り分はわずかだ。

 川越副会長は「これまでは協力してきたが、県の通知後、会員から反発の声も寄せられている。こうした状況が続くと猟師の減少にもつながりかねず、待遇の改善が必要」と不満を漏らし、今後、県に申し入れなどを行うことも検討中だ。

 クマの生態に詳しい東北芸術工科大の田口洋美教授も、「猟は鉄砲があればできるのではなく、猟友会のように知識や技術があって初めてできる。肉を消費できないのであれば、日当を出すなどの補償が必要」と指摘する。

 同課では、「通知で示した地域で捕獲されたクマを買い取ったり、猟師が負担している処理費用を公費で賄ったりするなど、対応を検討したい」としている。

 *有害鳥獣捕獲 農作物被害や人への危害を防ぎ、適切な個体数を維持するためなどに主に禁猟期間に動物の捕獲を行うこと。同課によると、2011年度(2月末現在)に県内で捕獲されたツキノワグマは143頭。このうち109頭が有害鳥獣捕獲で、過去10年間の平均は201・4頭。

(2012年5月12日 読売新聞)