学術会議が問題提起 核のごみ 直視必要 (東京新聞)
(東京新聞「核心」9月12日)
政府は十一日、新たに原発の安全規制を担う原子力規制委員会を十九日に発足させることを決めた。同委は再稼働や四十年がたった原発の運転延長を認めるのかなど重要な施策を握る。折しも、日本学術会議が、核のごみである使用済み核燃料という原発の最大の弱点をあらためて問題提起した。原子力政策の向かう先は絞られつつある。 (榊原智康、大村歩)
◆独自に判断
「保安院は『こうすべき』と思ったことが実現できない何かがあった。規制委は政治や電力会社から独立した組織。意向をくむ必要は全くない」
初代の規制委委員長に内定した田中俊一氏は十一日、記者団にこう語った。
クリーンで独立性のある規制機関とすることを強調した。裏返せば、政治が原発ゼロを打ち出しても、その決定にとらわれずに判断する可能性があることをも意味する。
規制委が判断を迫られる直近の大きな課題は、再稼働と四十年廃炉の二つだ。
近く政府が決める将来のエネルギー戦略で、原発ゼロを打ち出しても、規制委が「科学的には問題なし」とのお墨付きを与えれば、老朽化した原発も含めどんどん再稼働する事態が起こりかねない。もし、そうなると、深刻化するのが使用済み核燃料の問題だ。
◆白紙撤回を
この日、「研究者の国会」とも呼ばれる日本学術会議が、使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分をめぐり、政府にこれまでの政策を白紙に戻すよう提言した。
「これまでの議論は順序が逆さまだ」。同会議の検討会を仕切った今田高俊・東京工業大教授(社会システム論)は、原子力委員会の会合で訴えた。
原発には使用済み核燃料という宿命的な問題がある。どれくらいの量の核のごみなら受け入れられるか、社会的な合意を得て原発との付き合い方を決めるのが本来のあり方だ。
しかし、これまでは一部の利害関係者でまず決定。立地自治体には交付金などお金の力で納得させ、その結果、途方もない放射線を放つ高レベル放射性廃棄物の最終処分に直面した途端、だれも受け入れない、という施策の繰り返しだ。
だが、学術会議ですら「核のごみ問題をどう解決するか」との疑問には答えを見いだせなかった。「トイレなきマンション」ともいわれる原発の限界があらためて鮮明になった。
◆プール満杯
政府は今週中にも新しいエネルギー政策を打ち出す。原発ゼロを掲げつつ、推進・維持派にも配慮した内容になる可能性が高い。
ただ、はっきりしているのは、原発を動かせば、その分だけ行き場のない核のごみが増えてしまうことだ。
学術会議によると、高レベル廃棄物をガラスで固めた「ガラス固化体」(高さ約一・三メートル、直径四〇センチ)は昨年末時点で、青森県六ケ所村と茨城県東海村の施設に千七百八十本が保管されている。
これとは別に、全国の原発のプールには計約五万体の使用済み核燃料がたまっている。数年も動かせば、プールが満杯になり、核燃料の交換ができず、ストップせざるを得ない原発が各地で続出することも本紙の調査で分かっている。
「原子力政策の方針を決めた後にごみ問題を考えるのではなく、ごみ問題を考慮に入れて原子力政策を決めるべきだ」
学術会議の提言は当たり前の話だが、日本はこれまで見て見ぬふりをして、原発を推進してきた。政府は原発ゼロに向け、中身のある一歩を踏み出せるのか。ごみ処理という「出口」から考えれば、おのずと取るべき道は見えてくるはずだ。