首長政倫条例1町のみ 原発立地21自治体

西日本新聞
 原子力発電所が立地する全国21市町村のうち20市町村は、首長の親族企業の工事受注を制限する政治倫理条例を制定していないことが全国市民オンブズマン連絡会議の調べで分かった。政倫条例のない佐賀県玄海町では、町長の実弟が経営する企業が原発関連の町工事を大量受注しており、九州電力玄海原発2、3号機の再稼働問題に影響力を持つ町長の公正さが問われた。同様の問題はほかの市町村でも起こりかねない。

 オンブズマンは7月、原発立地市町村のホームページなどで政倫条例の有無を調査。本紙が市町村に補足取材した。

 それによると、首長対象の政倫条例を制定しているのは愛媛県伊方町のみ。95%を占める未制定市町村の中で、九電川内原発が立地する鹿児島県薩摩川内市など5市町は議員対象の政倫条例だけを制定していた。

 原発立地市町村では、電源立地地域対策交付金など国からの交付金が公共事業の主な財源になっている。玄海町の場合、町長の実弟の建設会社が町や九電の発注工事を多く請け負っていた。東京電力福島第2原発がある福島県富岡町でも「議員の妻が経営する建設会社が町の公共工事を受注している」と町職員が明かした。

 政倫条例は首長や議員と事業者の癒着を防ぐのが目的だが、未制定市町村はあまり必要視していない。福島第1原発がある福島県大熊町は「歴代町長は農家出身が多く、会社経営者がいなかったので制定の動きがなかった」。薩摩川内市は「市長対象の政倫条例がない理由は分からない」(総務課)としている。

 伊方町も今年6月の条例改正まで約4年半、町幹部や議員の2親等以内の親族企業に対し、町工事の受注辞退を義務付ける条文がなかった。

 原発のある自治体の多くは電力会社と協定を結び、原発再稼働は「地元同意」を条件としているが、オンブズマンは「身内が原発の恩恵を受ける首長に公正な判断ができるのか」と疑問を投げ掛ける。政倫条例を調査している尾崎行雄記念財団(東京)の谷本晴樹主任研究員は「原発関連の交付金が入る立地自治体こそ、政官業の癒着が疑われないように厳正な政倫条例を設けるべきだ」と指摘した。

=2011/08/29付 西日本新聞朝刊=