「日本は縮こまらなくてはならない」という錯覚はどこから来たか?

武田邦彦中京大学教授

1990年、バブルが崩壊すると、それまであれほど贅沢をしていたのに、180度転換して「節約」、「環境破壊」、「資源の枯渇」などが流行しました。
なぜ節約が必要なのか? 環境は破壊されているのか? そして、本当に資源は枯渇するのか? そんなことにはあまり関心もなく、真剣に考えもしないで、社会は「地球に優しく」という言葉に酔ってしまったのです。
中国は発展して良いけれど、日本は節約しなければならない・・・なぜ、同じ地球に住む人間としてこれほどの違いを認めていくのか、その理由すらハッキリしませんでした。
また、「事実を見ずに御札(建前)だけで進む」ことも当然のようになったのです。まだ、検証が十分ではありませんが、その結末が福島原発事故であり、東海地震を心配して阪神淡路大震災、東北大震災で犠牲をだしたのではないかと思います。
私たちはここで立ち止まり、真剣に考えなければならないでしょう。つまり、今度の福島原発事故は、1990年以来、日本社会が「現実逃避、ダブルバインド」に陥ったことによると考えられます。「ダブルバインド」とは、たとえば子供に「こっちに来なさい。あっちに行っていなさい」と二つを同時にすることができないことを求めて、相手を窮地に陥れることなどで使います。
現実にも、「環境が大切だから、ガソリンを節約しよう」と言いつつ、「高速道路はタダがよい」というようなことで、この二つが明らかに矛盾しているので、ダブルバインドの例です。日本社会はそれを自分でやって自分で苦しんでいるように見えます。

原子力発電は安全だ≠僻地に原子力発電を作る

原子力発電所地震に強い≠震度6に耐えた原子力発電所はない

●ゴミを分ければ資源≠分別したプラスチックは燃やしている

●CO2で日本は温暖化する≠水の比熱は空気の3500倍

●アルプスの氷が融けているのはCO2の温暖化だ≠イギリスのテムズ川が1814年から凍らないのは太陽による温暖化だ

少子化を食い止めれば年金が安定する≠ピンピンころりが理想だ

●命を大切にする教育≠福島の子供は1年20ミリ

●中国の食材は危険だ≠日本の食材はセシウムだけで1年5ミリ

●中国は情報統制している≠福島3号機の爆発の写真は報道しない

●東京に住んでいる≠温暖化防止を叫ぶ

●東京に住んでいる≠生物多様性を叫ぶ

●トキを保護する≠ゲンゴロウの絶滅には関心がない

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私たちはこの際、「今だけ良ければよい」、「言葉だけ優しそうに見える」ということから、自らの意志、誠意、良心に戻らなければならないように感じられます。


平成23年10月30日) 武田邦彦