財務省情報工作TPRに基づくNHK御用放送

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植草一秀
TPRと呼ばれる言論統制事業がある。この事業は1986年に発足した。TPRとはTAXのPRと言う意味である。大蔵省財政金融研究所研究部に事務局が置かれた。事務局長は当時の財政金融研究所次長である。

   TPRを創設した目的は売上税導入を成功させることにあった。 中曽根政権は売上税を創設する一方、所得税法人税の減税を提案しようとした。増税額と減税額を同規模にするレベニュー・ニュートラルの前提が置かれた。当初は売上税と言う名称が決まっていなかった。大蔵省内部ではこれをKBKという符牒で読んだ。

  「課税(K)ベース(B)の広い間接税(K)」を略してKBKと呼んだのだ。

   TPR事務局では、まず、政界・学界・財界3000人リストを作成した。税制論議に影響力のある3000人を選び出した。

   そして、この全員に大蔵省職員が説得工作を行った。事務局は3000人リストを作成し、それぞれの名前の右側に日付とマークを書き込める表を作成した。何月何日、大蔵省の誰が説得工作に行って了解を得たか、あるいは得られなかったかを記入する。

   3000人の説得が終了するまで説得工作は続けられた。

   他方、TPRウィークリーが作成された。1週間の間の新聞、テレビ、週刊誌、月刊誌、単行本における主張、論評が検閲の対象とされた。売上税賛成論と反対論とに分けて、人物を分類する。賛成者は売上税導入の太鼓持ちとして活用する。反対者はブラックリストに載せて説得工作の重点対象とした。

   さらに、テレビ局、新聞社、広告代理店の最高幹部を対象に、築地吉兆などを使用しての高額接待が展開された。マスメディアを上からコントロールするための工作活動である。もちろん、国民の血税を用いての高額接待だ。

結局、1986年の売上税構想は1987年に入って挫折した。土井たか子社会党党首が反対の先頭に立った。売上税が挫折した大きな要因をふたつ挙げることができる。

   ひとつは、中曽根首相が1986年夏の総選挙に際して、投網をかけるような増税をしないと発言したことが、のちに公約違反だと批判を浴びたこと。

   いまひとつは、学者の集まりである政策構想フォーラムが、1986年秋に税制改革の所得階層別影響試算を発表したことだ。フォーラム試算では、中間所得者層の大部分と低所得者層が負担増になるとの結果が示された。これを契機に反対論が急速に強まり、中曽根政権は売上税導入を断念したのである。

     大蔵省財政金融研究所次長でTPR事務局長は、政策構想フォーラムで所得階層別試算を行った責任者の本間正明大阪大学教授について、「本間を取り込め」との指示を出した。

   大蔵省は本間氏を財政金融研究所主任研究官として招聘した。その後、大蔵省は本間氏に税制調査会財政制度等審議会、資金運用審議会など、大蔵省関係審議官の委員ポストを付与し、大蔵省の御用学者に仕立てていった。政府ポストを付与して、学者を手なずけることを大蔵省では「毒まんじゅう作戦」と呼ぶ。

  大半の学者は「毒まんじゅう作戦」で転んだ。本間氏も、幾年も経たぬうちに、すっかり大蔵省の御用学者に転向していった。

このTPR活動はいまも脈々と引き継がれている。現在は、財務省主税局にTPR担当企画官が配置されている。

   TPRだけではないのだが、政府が重要施策を遂行する場合、最重要の情報工作活動として利用されているのがNHKである。日本偏向協会である。日本御用放送ともいう。

   番組編成枠で言うと、NHKスペシャルの枠が「御用放送」として用いられる中心である。

   NHKスペシャルを担当する番組系列はいくつもあるが、私の知っている限りでは、「おはようにっぽん」枠が担当するNHKスペシャルが御用放送に振り向けられることが一番多いようだ。

     これ以外には、政治部が担当する「日曜討論」、「クローズアップ現代」などが「御用枠」として利用されることが多い。

   小渕政権下で金融機関の自己資本を増強するために公的資金を注入する政策が実行されるときも、NHKスペシャルが用いられた。

   古くは、橋本政権が消費税増税を実行する際に、NHKが二夜連続で日本の財政危機を煽る番組を放送した。主権者である国民は、NHKが中立の公共放送を行う機関ではなく、御用放送を実施する大本営であることを、正しく認識しておく必要がある。

このNHKが12月17日に、やはりNHKスペシャル枠で 「シリーズ日本新生 第3回 激論“増税” 税から考える 日本のかたち」 を放送した。

  「激論」とのタイトルが付けられているが、「激論」ではない。

  いわゆる「やらせ」シリーズだ。

  「激論」のタイトルをつけるなら、消費税増税に賛成する中身のある主張を展開する論者、反対する論者を3対3程度で出演させて、きちんと論議を戦わせるべきだろう。

   政府を代表する閣僚、増税賛成派の御用学者、増税に反対の意見だけ表明する中身のない元閣僚、増税反対派の市民、これに御用放送の記者が入って論議しても、ほとんど意味はない。市民派の出演者が正論を少し示すだけだ。

   スタジオに呼び集められた人々は、発言機会が一人一回あるかないかの、お飾り以下の存在である。

   スタジオの市民を集めて、「激論」などのタイトルを付けておきながら、一人一回も発言できない番組を作るところに、NHKの欺瞞性がよく表れている。

     NHKスペシャルの政治版は、99%が御用放送=やらせ番組であることを番組視聴者は予め知っておく必要がある。電力会社が原発再開に向けて開く公開討論会とほぼ同類のものだ。