東日本大震災:67歳、仮設住宅で孤独死…9カ月の朝

毎日JP

東日本大震災から9カ月の今月11日、津波で妻を亡くし福島第1原発事故で故郷を追われた福島県双葉町の男性(67)が、白河市仮設住宅で亡くなった。独り暮らしで、冷え込んだ朝に風呂場で心臓発作を起こしたとみられる。命を守ることはできなかったのか。支え合ってきた仲間たちは悔しがる。【袴田貴行】

 この日、双葉町民が9月まで避難した猪苗代町のホテル「リステル猪苗代」では、照明で「絆」の文字を浮かび上がらせ、仮設住宅などに移った約130人が再会して一夜を過ごすイベントが計画されていた。

 送迎バスが白河市仮設住宅を出る午後1時。参加するはずの男性が現れない。仲間が部屋を訪ねたが応答がなかった。誰も合鍵を持っておらず、巡回中の警察官が窓を破って中に入ると、浴槽で倒れ、冷たくなっていた。

 双葉町で生まれ育った男性は、左官業や農業で生計を立ててきた。3月11日、津波に流され一命を取り留めたが、一緒にいた妻は泥水を大量に飲んで亡くなった。

 4月上旬からリステルで避難生活を始めた。家族、自宅、故郷を一度に失い、初めは言葉少なだった。そのうち男性が中学にほとんど通えず字を書くのが苦手だと知った人たちが、災害弔慰金の申請などを手助けするようになった。

 避難住民は「お世話になっているお礼に」とホテルの庭や道の草刈りボランティアを始めた。男性はリーダーを任され、炎天下で率先して汗を流した。自治会長を務めた天野正篤さん(73)は「悲しみをのみ込み毎日ボランティアに打ち込む姿に、『自分も頑張らないと』と思った人は多かった」と振り返る。

 リステルの避難所は9月末で閉鎖され、男性は11月にホテルで親しくなった人が多い白河市仮設住宅へ移った。周囲にはよく「春になったら、また草刈りに行かないと」と話していた。

 慣れない独居生活を心配し、浅川信(まこと)さん(72)は毎朝7時過ぎに「起きてっかー」と、男性の部屋に声をかけた。だが亡くなった日は返事がなかった。「寝坊しているのかと思ってしまった。すぐに人を呼ぶべきだった。いつか一緒に双葉に帰りたかったのに……」

 この仮設を巡回する町社会福祉協議会の相談員は「男性は持病もなく、防ぐのは難しかったかもしれない。でもこれを機に、仮設内の安否確認体制や、合鍵の管理方法を考える必要がある」と話す。

 リステルでの再会イベントを楽しみにしていた男性は、亡くなる前夜、仮設住宅の友人にこう話していたという。「ひげ生やしたままだとみんなに笑われっから、明日の朝に風呂さ入ってひげそんだ」

 ◇冬本番で発症リスク増加…脳卒中心筋梗塞
 冬本番の被災地で、脳卒中心筋梗塞(こうそく)による孤独死の防止が緊急課題となっている。慣れない環境と仮設住宅の寒さが発症リスクを高め、阪神大震災でも冬場に増加した。専門家は「独居高齢者の見守りや健康管理体制の強化を急ぐべきだ」と警鐘を鳴らす。

 福島県二本松市浪江町仮設津島診療所の関根俊二医師によると、11月以降、仮設内で高齢者が突然倒れる例が相次いでいる。高血圧で急に寒くなると血管が縮み発作が起きやすく、特に福島県寒冷地仕様でない仮設住宅が多い。関根医師は「1〜2月が要注意で、独居の人は栄養管理も重要」と訴える。

 岩手県釜石市は見守りが必要な92世帯に非常用ブザーを設置した。ボタンを押すと室外灯が回り警報が鳴るが、メーカーが寄付したもので、増設のめどはないという。【吉川雄策、神足俊輔】