世界で一番平和で大きなデモ

天木直人

6月29日の総理官邸を取り巻く原発反対デモに参加した。
まず驚いたのはその数の多さだった。総理官邸を取り巻くデモでこれ
だけの数が集まったのは、安保闘争デモ以来であろう。
しかもこの数はこれからもどんどんと増えていく。文字通り日本の歴史
の中ではじめての動きである。
二つ目に、このデモは政党や労組などが組織動員したデモとは異なった
一般参加のデモであったということだ。
「ということだ」と書いたのは私にはその違いがわからないからだ。
しかしデモに参加していた左翼政党関係者が語っていた。デモでいつも
見かける顔ぶれをほとんど見ないと。動員して集まった者たちではないと。
デモの常連者がそう言っているのだ。間違いない。
三つ目に、このデモはお互い知らない者同士がひとつの目的に向かって集
まったデモであるということだ。
原発反対を唱和する声が時々とぎれ、その合間にマイクを通じた演説が繰り
返される。
その殆どは政治家の演説である。
彼らの演説は何々党の何々議員ですと名乗ってから話す。
しかしそのような自己宣伝がその場を白けさせるような、一般市民が主役
のデモであった。
身分や出身などどうでもいい。ただ、原発反対、原発再稼動を許すな、と
いう抗議こそが重要なのである。
圧倒的な数の無名の声が、野田政権の原発再稼動に怒りをぶつけ、官邸を
包囲する。そのことが重要なのである。
デモに参加して声を上げる者が偉いのではない。その声が政治を変える、
その行動が重要なのだ。
ついでに言えばやたらに美しい女性が目についた。若い人も年配の人も。
正しい事をやっていれば人は美しくなるということか。
そして最後に、私がつくづく実感したことだが、これは世界で最も平和な
デモではないかということだ。
デモがおとなしいのではない。
原発反対の怒号は激しい。
本来ならばデモ参加者とそれを取り締まる警官との間で暴力沙汰になって
もおかしくはない大規模のデモだ。
ところがデモ参加者は警察の指示に従って整然と行動する。立ち止まると
渋滞するから歩き続けてくださいと警官がマイクで注意喚起すと、デモを主導
する者たちがその警察の指示を守るようにと呼びかけ、参加者はそれを守る。
こんな平和的なデモは世界ひろしといえどもないだろう。
それでいてデモが訴えている事は過激である。野田政権の退陣を求める。
主導者のいないデモ、特定の政党や組織が主導しないデモが、果たして政治
を動かす事ができるか。
私はデモの中に身を置きながらその事を考えていた。
そう思いながらこう考えた。
このデモが、野田民主党政権原発を再稼動しようとする限りおさまらないと
すればどうか。
その数が週を追って膨れ上がり、100万人規模のデモになっていけばどうか。
さすがに政府も原発再稼動を強行できなくなるのではないか。
政治が原発再稼動を阻止できなくても、一般国民がそれを許さず、平和デモ
の形で政府が止めない限りデモが継続、拡大していく。
政府はその声に従わざるを得なくなる。
まさしく平和なデモが政府の政策を変えるのだ。
世界に例のない平和で最大のデモが政府の誤りをあらためさせる。
この快挙の当事者となるために、一度はこの歴史的デモに参加しよう。
これが消費税増税でもオスプレイでも連鎖して起きるようになれば日本は
間違いなく変わる。
そこに私は希望を見る思いで帰ってきた。
                                    了