暗くなるばかり 来年の見通し 真相はまるで戦争前夜の様相

日々担々 資料ブログ

(日刊ゲンダイ2011/12/21)

残念だが明るい情報を探し提供するのは極めて困難な世界情勢

独裁者の急死で、朝鮮半島がキナ臭くなっている。金正日から正恩へのバトンタッチが滞りなく終わる保証はない。ヤマっ気たっぷりの跳ね返りが暴発すれば、一気に情勢は緊迫だ。

軍事ジャーナリストの神浦元彰氏が言う。
北朝鮮の軍隊はボロボロです。戦車や戦闘機は旧式で、燃料がないから訓練もできない。通常兵力は世界の三流、四流です。ただ、核や生物化学兵器は大量に持っている。これが怖い。韓国の国防白書によると、わずか1グラムで数万人を殺せる生物兵器を1トンも保有しています。化学兵器は4000トンです。権力移譲のドサクサに紛れて、これら“貧者の核兵器”が国外に持ち出されると、世界が恐怖に怯えることになります」

北朝鮮は閉ざされた国だ。内実は分厚いカーテンで隠されている。本当の姿が見えないだけに不安は尽きないが、本当の危機は別のところにある。財政問題で各国がガタガタになっている欧州だ。
「統合欧州は来年、メルトダウンする恐れが強い。ユーロのルルを守れない国々が続出し、瓦解してしまう危険性が高いのです」
こう予想するのは、東海東京証券チーフエコノミストの斎藤満氏。年が明ければ、通貨「ユーロ」も消えてなくなるかもしれない。1999年のスタートから13年。寿命は短かった。

◆英仏が格付けめぐり場外乱闘のお粗末

「欧州は危機対応を間違えました。ギリシャやスペインといった南欧の国々は、もともと経済が弱く生産性も低い。ハンディ克服の政策として考えられるのは、(1)為替を安くする(2)金融を緩和する(3)財政を出動する――の3つです。でも、ユーロ加盟国は、(1)と(2)が共通だから独自のプランを採用できない。打てる手は、財政による下支えだけです。それなのに先日開かれたEU首脳会議は、財政規律の強化を打ち出し、来年1月中の条約合意を目指すと決めた。デキのいい生徒に合わせて授業を進めれば、落ちこぼれの続出か、学級崩壊が当たり前です。財政危機を抱えている国の経済は大幅なマイナス成長となり、ニッチもサッチもいかなくなる。影響は甚大で、いずれドイツやフランスもおかしくなります。必要なのは、財政が痛んでいる国にカネを回すこと。それをやれない欧州に未来はありません」(斎藤満氏=前出)

ユーロ存続には、強者が弱者を救うしかない。ドイツが先頭に立って、自国民への負担を増やしてでも南欧諸国にカネを回す。ユーロを守る方法はそのひとつしかないが、現状は、中核国まで余裕をなくしてグラグラだから厳しい。
国債格下げに怯えるフランスは、ユーロ非加盟国で条約合意に反対する英国に八つ当たり。「財政赤字、経済成長率などを見れば、英国を格下げすべきだ」(ノワイエ仏中央銀行総裁)と攻撃している。知恵を出し合って危機を乗り切ろうというときに、場外乱闘を繰り広げているのだから、お先真っ暗だ。
適当な格付けで市場を混乱させる格付け機関の罪は重いが、振り回される方も情けない。欧州の最後の瞬間は、すぐそこに迫っている。

◆債務の重みに耐えられない米国の失墜

それでもこれまでなら米国が支えた。強い通貨ドルを背景にした米国による安定。ソ連崩壊後は、唯一の大国としてリーダーシップを発揮し、政治や経済を牽引してきている。
しかし、強国の威厳も今は昔だ。財政赤字の拡大はドルの信頼を失墜させ、海外からの資本流入を鈍らせている。景気は冷え込み、格差は拡大。全土でデモが広がるありさまだ。とてもじゃないが、他国のことなど構っていられない。
共和党民主党は共同で財政赤字削減策のとりまとめを目指しましたが、富裕層への増税案などをめぐり決裂。協議は進んでいません。連邦予算の歳出を強制的にカットするトリガー条項の発動も現実味を帯びています」(在米ジャーナリスト)

トリガー条項は、2013年からの10年間で1兆2000億ドルを削減するという決まり事。現実になれば、軍事費はもちろん、教育やインフラの予算にもメスが入る。ただでさえ落ち込んでいる景気は急ブレーキで墜落だ。「1%が富を独占している」と声を上げている人たちの暮らしは、ますます追い込まれてしまう。
「先進国の経済は、政府が有効需要をつくるケインズ主義で何とか生き延びてきました。景気が落ち込んで企業や個人がモノを買えないときは、国が買い物を増やして支えるという考えです。ところが今は、頼みの綱であるはずの国も、債務の重みに耐えられない。もともと米国は自由奔放に格差を容認してきましたが、景気の低空飛行が続くと、どん底にいる人たちは可能性を感じられなくなる。“格差を何とかしろ”という不満はどんどん拡大していきます」(エコノミスト・高橋乗宣氏)
景気が後退すれば、国民は悲鳴を上げる。長く続けば、怒りが爆発だ。矛先は政府に向かい、デモや暴動が頻発する事態を迎える。すでに欧米はそんな状態で、政府のコントロールは利かない。抜き差しならない状況だ。

◆経済危機をチャラにした戦争の歴史

本来なら、第三極を担うはずの日本経済も、20年以上前から低迷している。新興国も頭打ちだ。日米欧の失速は、中国経済も冷え込ませている。来年を見通せば、暗くなるばかり。明るい情報を探して提供するのは困難な情勢だ。

そんなときに起きるのが戦争である。マグマのようにたまった民衆の怒りを外に放出し、破壊と再建で特需を生む。これまでも人類は、経済的な危機を戦争でチャラにしてきた歴史がある。経済が破綻すれば、暮らしていけない。生きるために、だれかを攻撃し糧を奪う。希望を持てない時代の必然だ。
「中国が保有する弾道ミサイルは、米国のワシントンやニューヨークに到達します。そんな両国が戦端を開けば、最後は核で互いに壊滅する。世界大戦の勃発は考えにくい」(神浦元彰氏=前出)

もちろん、冷静な判断ができればそうだ。みんな苦い経験をしている。ただ、火種は世界中でくすぶっている。大国が真っ正面からやり合う危険性は低いだろうが、何が口火を切るか分からない。戦争は、いつも常軌を逸している。狂気の場面だ。冷静な考えはかき消され、暴力が支配する。それは70年前も80年前も変わらない。戦争の前夜は、こんなものだ。